橋本武(故)

 尊敬・敬意の先達紹介が続きます。

 このお名前、ご存知の方も多いかもしれません。昭和2年兵庫県神戸市灘において、酒造家の篤志で創設された「灘中学校」(※戦後の633制移行で、昭和23年に灘中高等学校の6年一貫教育へ転換)で”国語科”の教諭をなさっていた方です。個人的には、卒業学府の先輩にあたるゆえ、勝手な近親感を抱かせていただいています。また、灘の校訓に「精力善用/自他共栄」が掲げられているとおり、開学にあたり、”嘉納治五郎”先生が強く関与していることをも、更にその意を強くさせるものです。そんな歴史を持つ「学府:灘」も、今では東大進学と秀才輩出で知られた名門でありますから、進学・受験や教材出版業界では「灘式」というブランド化現象も視られています。橋本先生も、戦後日本の偏差値評価による受験戦争の渦に巻き込まれました。そんな世相の中、私学の独自性という強みを最大限に発揮し、素晴らしい”言語教育法”を開発実践されたことをご紹介したい訳であります。この方法は、同業界での注目は元来でありますが、ここ数年、一般的にもその有効性認識が拡大されてきており、加担しようと考えます。ではその実は何であったか、と申しますと、現代文教育に際して、6年間でたった一冊の小説(名著「銀の匙」:中勘助)を教材としながら、徹底的で丁寧な深読み・幅読みを行い、言語世界を豊かに立体的に把握するという感性を育ませました。そしてその教育を受けた生徒達は、結果として、受験戦争にも十分に対応して見せたのです。橋本先生曰く、「(受験)戦争時に、本当のゆとり教育の力が実証された。」とありますが、対策付け焼き刃ではない、基礎力の実態をまざまざと魅せていただけたことは稀有なことでありましょう。「能力開発」ここにあり!と声高に発したいと思います。

 以下に、私見で橋本式教育のポイントを2つ挙げさせていただきます。

甲)横道にそれる ➡ 分からない、知らない事や言葉が出て来たら、本分から逸れて、そこを深掘りしたのちに戻って来る。

乙)追体験する ➡ 百聞は一見に如かず、を実地に行い、現場臨床を重要視する。

同時に、橋本先生の表現にある国語教育7つのポイントもご紹介します。

子:読む 丑:書く 寅:話す 兎:聞く 辰:見る 巳:味わう 午:集める

 最後に、こういったことを駆使した、”全感覚導入術”とも言える方法を実践した橋本先生が、若かりし時、大漢学者:諸橋轍次先生の書生をされていた事にその遺伝子を感じずにはいられません。  

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