呼吸

 最近、生理呼吸現象を見直す動きが多いようです。生命を説明しようとするとき、呼吸・食・性がその三大要素になりましょう。その一角を為し、生死に即直結することですから切実性は最もですし、現状のコロナ肺炎禍下では恐怖する日々です。

 前回のブログで、『易』の世界観 に一歩入り、視点の拡大という提案をしました。自然界の運動現象は、拡大と収縮の2大極性を持ち、そこに律動性が生まれる、との法則性を記述した、世界で唯一の知的営為だと思います。この臨床の先端が、まさに”生理呼吸現象”である筈です。また、鰓と肺の点から診れば、植物と動物を分ける基準、とも出来るでしょう。今回の呼吸は、同じ呼吸現象でも知性に於ける事になります。呼吸の一方の極である、拡大を知性に振り向けた場合の一具体例です。

 CAの中核目的である『人間研究』を支える三本柱(歴史/生物/臨床)の、生物領域に入る内容になります。ここで現代の思想に最も影響を与えたのは、間違いなく チャールズ ダーウィン、そのヒトでありましょう。ダーウィンは、業績 知名度や評価から誰もが知ることですので、今回はほぼ同時代を生きた別の学者をご紹介します。それは、昆虫記で知られるフランス人 ジャン アンリ ファーブル です。生誕1823~死去1915で、享年91でした。日本への紹介は数ありますが、近年で最も力を尽くした方は、奥本大三郎先生であろうと思います。詳しい事情は、wikiに譲りましても、彼のスカラベ(日本名:タマオシコガネ/俗称:フンコロガシ)研究は非常に興味深いですし、それが古代エジプトで太陽神として神格化されていたこと、英国のグループサウンズ”beetles”の命名に深く関わっていること、など意外な連関性は見逃せません。ファーブルは、そういったことへの考えも表明しています。また、当時のフランス学術界で対極を為す生き方をした ルイ パストゥール(現代ワクチンの始祖)や、ダーウィンとの応酬記録も科学勃興の時代性を感じさせてくれます。

 しかし、ファーブルに関して最も特筆したいことは、いや、すべきことは、そこではありません。全10巻に渡る一大傑作『昆虫記』をつぶさに精読することももちろん重要ですが、根底に流れる彼自身のモノの診方にあります。当時は自然界を分解して、その構造と機能を解き明かそう、という科学気運一辺倒ですから、その方式でないものは評価されない訳です。そんな中、彼は”徹底観察”の手法を採用し、昆虫生態の解明に挑みました。潮流が、ラボでの分類と標本づくりの時代に、フィールドワークを重要視したのです。いわゆる、虫眼鏡ひとつで地面に張り付いたのです。その結果、無味乾燥なラボでは感得しえない、昆虫の実態に接近し、その生き様を丸まま捉えることに成功しました。結論などは出ないまでも、その業績は動物研究の新しい領域を切り拓いた訳です。この事の実相は、現代の還元主義と全体主義に繋がる重要なものを示していると感じられますし、そのまま”西洋性と東洋性”に投影できると感じます。これに似たことは、日本の平衡医学の世界でも起きていますが、その紹介は以降に譲ります。

 こういった動物学の先達の視点を自身に映し、どんどんと感性を拡張する面白さへ共に進みましょう。それこそが、知的呼吸における、『吸』行為になってまいります。

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