ヒューマニエンス「”顔”ヒトをつなぐ心の窓」を視て
続くテーマは、『顔』であります。
毎度そうではありますが、探求するには特に格好のお題です。日々のラインやメール交信で、表情絵文字の選択に悩む慣習は、平素の美顔術以上にここへの注意を引いていると想われます。そんな時節に、あらためて客観する意味は大きいでしょう。何故なら、ヒト科の属性を識ろうとするに際に、琴線に触れるヒントをくれるからなのです。今回は、役者の専売特許ではない実態を知る切欠として、良い番組でありましたので、自身の興味のままに感想を書きます。
甲)本音があふれる情報源
この小見出しの肝は、隠せない微表情/人生と皺(:しわ)、に集約されています。ヒトの活動エネルギーの根源は、欲と情動とするとき、その性質は無意識に現れる微表情そのものである訳です。また、その積み重なる微表情が、人生の皺(:しわ)として顔貌に刻まれ、性格を形作るとの主旨であります。この微表情は、無意識に出てしまうので、随意に操作出来ないのが常です。微表情を創る顔面筋は大脳辺縁系支配でありますから、本能性直結とも言えます。また、微表情の場が、口角と眉間であることは、生物進化の相を引きずっている姿を露呈しているのです。ヒト生態の重層性は、正に”顔”そのものに現れています。しかし、ヒトに与えられた可塑性・自由度は、努力次第ではこの無意識領域への介入も可能なのかもしれません。名俳優、歌手、スパイ等に視られるパフォーマンスは、そこへの唯一ヒントであります。
乙)顔の科学
ここは、やや番組内容を越えます。
頭部は脳を中心としてあらゆる感覚器が集合一体化していますが、発生史上で視ると、大きく二分されます。それは、脳頭蓋と顔面頭蓋と呼ばれ、発生は体壁系と内臓系に分けられます。この対極性は、あらゆる側面で非常に重要な視点を与えるものですが、今回のテーマ『顔』の属性を識る上でも、欠かせないでしょう。もうお分かりのとおり、顔は内臓機能と直結しているという、意外なる事実なのです。この視点を用いれば、上記の欲と情動を現す微表情の意味も、スッキリと捉えることが出来ます。内臓機能と申しても、その象徴は”消化吸収排泄”に関わる器官群です。
丙)眼と社会性
眼は口ほどにモノを言う…なる表現があるように、ヒトの社会性と視覚は、表裏の関係と視えています。その心は、環境における、触知ー接触ー距離感 で一部説明できるかもしれません。ヒトの子の誕生~成育プロセスに被せるならば、乳幼児の舐めまわし(舌) → 幼児児童のいじりまわし(手) → 生徒学生成人以降の観察(眼) という触覚器のバトンタッチに現れており、同時に生ずる社会性と対人距離感は、動物とは違うヒトらしさを感じさせる十分な材料だと考えています。また、黒目/白目の配分と洞察も、ここに属する重因子です。一例を申せば、武術の2者対峙において、眼を視ないことの意味を聞かされたとき、その意を確かにしたことがあります。
丁)うれしくて泣く?
この話は、科学合理性の一つの限界が見え隠れするお話です。番組では、表情認識装置(ヒトの表情筋の動きで、情動を追う機械)では、”うれし泣き”が分からない事実が紹介されました。確かに、表情は笑顔なのに涙腺が開く、という矛盾は、とみに人間的行為であり、不合理なる属性の象徴であります。この解釈がAIでは難しいということは、有機性を無機性で説明することの限界性を指し示していると考えています。少なくとも、背景・情況・動きを包括して見なければ、泣く/笑う意味は捉えられないのであります。また同時に、ジェスチャーや言語が補完して、状況が成立することは今更です。これこそが流行りの『認知科学』にはまる解釈であり、新たな学術が拓かれるべきフィールドとなっています。
★ここに関して、スポーツ/体育/運動学習/トレーニングの業界は、大きく後れを取っています。
戊)顔が気になる生物
3000人の顧客の顔を覚えているホテルマン、仕事柄とはいえど、素晴らしい能力と感じています。こういった顔記憶の感性は、上記(丙)の社会性の説明を厚くするものです。自身も「あっ、見覚えのある顔だな」という感覚は、日常的に湧き上がりますが、これこそが”顔貌認識・記憶”という特異なヒトの能力として再認識されました。特にその記憶法が、カリカチュアと言われる差異・特徴抽出というところなどは、認知性の真骨頂なのであり、これまた無意識の範疇に収まっています。総じて、無意識に生きる実態が露わになるのです。