竹内敏晴(故)

 ご紹介するまでもない、実力派の演出家であり、「発声とからだ」という独特のトレーニングをなさった方です。あまり縁されていないようでしたら、これを機に、残された竹内ワールドに興味関心を持つことをお勧めします。竹内さんは、戦前の1925年のお生まれで、2009年に身罷られました。その足跡・実績は、難聴/聾/回復 という誠に稀有なる境涯で体験された感性を、演技指導はもちろんのこと、「ことばと人間」という希少なる教育に応用なさいました。サイン 記号 国語 といった、手段に埋没した ”ことばと、そのエネルギー”の生物的実態 を我々に(ひら)いてくださったことは、本当に有難いことです。「声の産婆」という呼び名は、まさに象徴と言えると思います。

 私は、竹内さんが残されたモノの中でも、2つのことに注意を向けています。

 1つは、ヒトの 呼吸・発声・発話・伝達・理解・交流 という現象を創る、水面下の仕組みです。いわゆる、健常者の当たり前から逸脱したときにしか見せてくれない、生きる事の真の姿 であり、”気付き”などという安易な言葉では尽せない、身につまされることであります。また、ことば と言いながらも、そのテーマは”からだ”を中核にして捉えており、身体表現(:パフォーマンス)を考える上では、欠かすことの出来ない認識を提示されています。運動表現力のコーチングを標榜されている方には、見えないエネルギー/内側に湧き上がる認識 が、如何に重要になるのか、という事を示してくれている貴重なる知見でありましょう。奇しくも、野口三千三先生 との深い交流が下支えしていることは、天の配剤 を感じずにはいられません。

 2つは、竹内さんご自身が、言語を復活させてゆく姿です。人間にとって、ことば を失うとはどういう事なのか、ことば があるとはどういう事なのか。その実相を赤裸々に広げながら、自助努力で進んでゆくリハビリは、哲学用語で言うところの、演繹そのものでありました。学習の自由度 脳の可塑性は、このようにして発揮されるのだ、と痛感させられた記憶は、今でも深々と自身の脳に刺さっています。後に重なった認識を言えば、現在の「認知神経リハビリテーション」の世界では、十全にこの手法が用いられていることを知り、進歩が感じられていることも事実です。

 読めば読むほど味が滲み出る 竹内ワールド です。パフォーマンス時代における「言語エネルギー」の復活は、これなくして成り立たないと思います。

※竹内さんご自身、解釈眼を多くメルローポンティ―に負っています。

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