ヒューマニエンス「”潜在能力”やわらかさという脳力」を視て

 ヒトの変化・進歩・発展に関わる方々の、多くが反応したと想われるテーマです。そう言う自身も、『生物ー時間ー変化』に魅せられている族ゆえ、好奇心のままに視聴した感想をいくつかのポイントに絞って書きます。世は、「見える化、可視化、データ化」の大合唱下ではありますが、そこで扱われる諸々の顕在現象は、潜在からの一部発露である事実を確認させてくれる、貴重な内容であったと感じています。この辺りの新規な知見は、『認知/脳』という総称用語で扱われており、益々の開拓分野として”恰好の研究場”となってゆくでしょう。見出される成果は、コーチング・学習・教育・指導等の臨床に大きく影響することは間違いありません。

➊ マルクス レーム

 ドイツ人のパラリンピック競技者で、走り幅跳びのチャンピオンが紹介されました。この手の研究は、”獲得と喪失”という条件が唯一無二になるので、障害を持った方の克服実態への介入は毎度のことであります。レーム選手は、生来の運動適性の高さを持ち合わせながらも、『義足』を完全に受け入れ、素材の機能性以上に使いこなす姿は正に”巧”そのものでありました。具体的には、その自らの身体以外の物体を、あたかも身体の延長物のように一体化する、脳懐柔性が注目対象になっており、”左右脳のコピー現象”として説明されました。今までの業界用語と重ねるならば、”転移:トランスファー”とほぼ同義で捉えられると考えています。しかしここで目敏く感じたことは、義足との接触面となる『膝周囲』の動きの精妙さでした健常者では考えられないような、”クネル”ような動きを見せていたシーンを視て取った方も多いと思いますが、そこにこそ義足と完全に一体化する様が籠められていたようです。

❷ エコーロケーション

 訳して、『反響定位』であります。番組内では、盲の方が自ら発する”クリック音”への反響を聴覚で捉え、周囲の環境や物体を把握するという、超絶なる感性が紹介されました。自身、エコーロケーションの認識は持ち合わせていましたが、その実態を視てあらためて驚かされたところです。『聴覚で世界を見る』とは、正にであります。ここで示される、代償性/可塑性に診る感覚器・感覚機能の重層構造は、非常に重要な知見であり、進化の逆行を想わされます。言い換えますと、視覚に毒された…との表現がはまるのではないでしょうか。また、空間に遍満するエネルギーと周波数への共鳴、第六感の賦活、といった生物の潜在感性への入口は、ここに存在する筈です。

❸ 大岡山

 上記に繋がる”視覚と動作”に関わる内容です。番組では、16歳で後天的に視覚を失われた、”木下路徳さん”の感性が紹介されました。小見出しに書いた大岡山は、木下さんが研究協力する東工大のある周辺環境を指していますが、聴覚と歩行という条件のみで、この小山状の環境立地を把握してしまうという再びの超絶能力に焦点を当てています。ここでは、「音と手:皮膚感覚」による代償性に加え、共感覚・言語という側面が現れていると言え、注目すべきは、視覚的想定(:イメージ)で活動する前頭前野が視覚が失われているにもかかわらず賦活している事実です。木下さんご自身、点字運用に精通していることは、この現象を説明する重因子となっています。

❹ 発達と抑制

 これは、脳を持つ脊椎動物全般に視える現象であります。番組では、ヒトの脳重量の増加成長と脳内シナプス総数の変化曲線が示され、脳機能と構造における時期を得た”刈り込み”現象が説明されていました私見で言い換えますと、繁茂と刈込/思春期と成人期/拡大と収縮/具体と抽象/無意識と意識 といった、対極性を表す言葉と同義で解釈出来ると考えています。また、”脳の呼吸”のように診ることも出来、拡大と収縮を繰り返す様は、呼吸循環に留まらない仕組みであることを想わされます。故に、ヒトの持つ様々な可能性は全て、拡大と無意識がその宝庫始原である実態を教えてくれています。

❺ 尻尾

 慶応大学の尻尾研究は、毎度その機転の鋭さと面白さを感じさせてもらっています。今回は、BMI(ブレインマシンインターフェース)なる開発器材を駆使した、脳の可能性を診る内容でした。骨子は、「果たしてヒトは、尻尾を取り込み操作することが出来るか?」であります。結果、訓練次第でおおよそ可能 との知見が示されていました。この事には、多くの意味合いが含まれており、義足同様の取り込み能力(可塑性、拡張性)イメージの力 認知リハビリテーション 教育可能性 等、眼に見えない認識の意味が表土に露わになっていますこういった世界は、見える化一辺倒のブームのカウンターとして、はたまた次なる波として、その運用期を待っています。

 

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