ヒューマニエンス「”呼吸”不完全が生んだ神秘」を視て

 やっと出ました、の呼吸論です。ヒューマニエンス主旨を想えば、早期に出ても良いテーマだったのですが、今回満を持しての登場であります。哺乳類ヒト科の存在が、三大欲求に支えられているとすると、呼吸は更にその下層に来るか、四大欲求に並べても良いかもしれません。その重篤度順に云えば、➊呼吸 ❷睡眠 ❸食 ❹性 です。このように順する理由は、もうお分かりだと思います。生涯で6億回にも及ぶ、ほぼ無意識なる呼吸現象を、ヒューマニエンス視点でどう展開するか……そこが一つの興味でもありました。また、ともすると呼吸が詰まりそうな世相の中、多く提出される呼吸論の整頓を期待したことも事実です。

 番組の始めに、植芝合気道が露出されたので、『武道論』で1セッションやるのかと思いきや、全くなかったのが拍子抜けでした(@_@)

以下に、番組内で気になった点を書こうと思います。

◎呼吸が死ぬ場所

 主たる論調が、呼吸生理学を軸に展開されましたが、この1stセッションはまさにその場となりました。構造的死腔と姿勢を手掛かりに、”良い呼吸と悪い呼吸”の認識と啓蒙は意味のあるものであったと感じています。しかし、生理学で診る呼吸の先には、「酸素摂取量」の絶対解釈が待ち構えているので、その限界は疑いようもありません。ここで、いくつか浮かんだ個人的な視点を述べます。一つは死腔解釈です。生物の海由来前提にはなりますが、鰓から肺へ/肺の配置/肺循環形成 を重ねて視れば、”死:全くの無意味な”と出来るのかもしれません。しかし、食道・胃腸との絡み、肺を守る緩衝エリア などの視方を加味するならば、必要な空間とも考えられるのではないでしょうか。二つは現代生活と呼吸です。現代において、呼吸と対峙する機会は、フィットネスか肺炎・喘息が良いところでしょう。含めた全体様相は、浅くなる傾向であることは違いない中で、どうすることが効果的対策になるのでしょうか?一般的には、呼吸筋に働きかけるトレーニングが提案されることが予想されますが、当方は『顎関節と口腔』に注目したいと思います。ここに至っては、呼吸生理学の範疇を脱出することになりますが、呼吸現象の重層性を考えると、そうならざるを得ないのが実態です。もし詳しく知りたいご希望があれば、別の機会に書こうと思います。

◎呼吸が下手になった…

 単純な呼吸効率(酸素の透過利用度)から診れば、鰓の方が高いことからの表現であります。この 鰓呼吸ー鰓・肺呼吸(例:ポリプテルス)ー肺呼吸=ヒト直立性 までのプロセスを、効率だけで問えば確かに下手になったと言えなくもありません。ですがお分かりのとおり、あらゆる想定での進化メタモルフォーゼの様相を考え合わせるならば、そうとも言い切れないことも事実です。その心は、直立性獲得と、紐づく顎・口腔の変化に明らかとなっています。要点を並べますと、顎の後退/歯列の転換/咬合の意味/気道と食道の分化/運動器としての舌/発声と言語/口呼吸・鼻呼吸 等が挙げられ、交雑に過ぎる変化を引き受けて来た内臓頭蓋が立ち現れて来ます。そこで想うことは、”目的へ向けた適者生存”というダーウィンの英知と、外から診た進化と退化の一体現象、しか解釈余地がないことなのです。

◎人間らしさの3呼吸 

 1⃣脳幹:代謝呼吸/2⃣偏桃体:情動呼吸/3⃣大脳皮質:随意呼吸 の三層支配は、ヒト科呼吸の真骨頂と言えるでしょう。この三層は、そのまま植物性呼吸・動物性呼吸・人間性呼吸と変換することも出来、やはりの進化相の積み重なりが露呈されるようです。これら相互の交叉支配は、見事としか言いようのない機能性を示し、特にストレスに湧き上がる情動呼吸を制する随意呼吸、認知の良否に深々と関与する呼吸の実態を見るにつけ、”人間らしさ”を形作る外せない現象として再認識させられます。番組内では、こういった微細なる呼吸感性を下地にした”日本文化像”が語られましたが、そこは認めつつも、含めた”東洋性:インド/中華の含意”への回帰を提示したいと思います。例を申せば、

泗 スー 嘘 シュイ 呵 ホー 吸 シー 嘻 シー 吹 チュイ 呼 イフ― 等は、漢籍に残る呼吸の質に関する漢字表現のバリエーションであり、如何に細かくその差異を捉えようとするのかが感じられます。また、それらの出自が『行 業 術 養』の世界であることも、これを機にあらためて確認したいところです。含めて、呼吸を解釈するには哲学が有効なのかもしれません。

◎二酸化炭素は、悪者か?

 地球環境で言えば、喫緊となる二酸化炭素排出問題であり、そこではあたかもの酸素礼賛だけが前提に見え隠れしています。しかし、生体内の微少循環世界ではこの相互の因果性が代謝呼吸を司っているのです。いわゆる、血液PH(水素イオン指数)と直結する二酸化炭素濃度が、酸素摂取(呼吸高進)を促す生理因子であり、どっちもどっちという関係性であるということです。典型的な例を挙げれば、激しい運動ストレス時に生ずる過呼吸症候群や、パニック障害での呼吸困難 等が当たります。言わずもがなではありますが、決して悪者とは出来ない気体と言えると思います。番組内で一部、長距離走者の高所トレーニングでの低酸素適応の話が出ましたが、ここで想うことは、低酸素(吸わない生理)への更なる研究の必要性です。その真意は、上記の呼吸文化日本とも絡みますが、西洋のエネルギー代謝論に基づいた酸素摂取量の裏を突く、密息の感性を科学するという意味と価値を表明したいと思います。

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