体操日本と橋本大輝選手
『体操日本の遺伝子』は、2020東京五輪で確かに継承されたようです。その系譜に名乗りを上げたのが、橋本大輝選手そのヒトでありました。貴公子を想わせる雰囲気と、裏切らないパフォーマンス能力はニュースター誕生と言えるでしょう。是非、即座に訪れる次回パリ大会でも、名前の通りに”大きく輝いて”欲しいと望みます。また、共に代表である、萱和麿選手 谷川航選手 の3者が千葉出身であることは、個人的な誉れと同時に、順天堂を登竜門として千葉エリアに形成された民間育成システムの力を感じさせられます。この独自発生的な体操文化は、世界視点でも稀有な成り立ちであり、発祥のゲルマン地域/大陸伝搬のロシア・旧共産圏/中国/飛び火の米国 等とは違った特長なのです。発端はご存知明治時代、近代国家構築に於ける殖産興業・富国強兵を担う新たなる国民像の創造に、その動機が求められます。いわゆる、農民国家を如何にして列強と伍するレベルまで引き上げるか、とのテーマに際しての唯一の拠り所は、”統制と軍事”しかありませんでした。そしてその任に当たったのが、輸入文化としての体操なのです。奇しくも、輸入先であるドイツ帝国初代宰相:ビスマルクの演説に由来する「鉄は国家なり」の言葉を下支えするものは、「体操は国家なり」であり、日本はそのコピー行為以外の何者でもありませんでした。知られるドイツの教育家であるヤーンも、ここに位置する存在です。しかし日本人の感性になぞらえた編曲力は、あらゆる分野を独自のものに醸成していますが、体操も例外ではありません。正に引き受けたのが、日本の芸道文化に於ける”美意識”であり、『わざの冴え』なる感性が適用されて行きます。今でも業界で保持共有・遵守されている”美しい体操を目指して”というキーワードは、体操日本の最大の強みであり、演技採点の一極を成すEスコア獲得の源泉になっています。足指末端まで完璧に制御された白樺倒立 等は、その真骨頂なのかもしれません。講道館柔道の云う”綺麗な一本を取る伝統”も同根と言えます。説明する因子はこれだけに留まりません。特に適性ある身体基盤も大きく関わっており、「猿飛佐助」を産む土壌、刀鍛冶の持つ理系感性と空間把握力、などは遺伝子の裏切らない表出現象と診えています。こういった日本独自の文化慣習が創る感性素地は、近代スポーツパフォーマンス時代に大いに発揮されている訳です。
これは蛇足ですが、器械体操:AG(artistic gymnastics)によって得られる、動きの基礎感性(絶対零点形成とそこから放射される運動表現のパースペクティブの把握力)は、非常に素晴らしいものがあり、あらゆる運動学習を促進させる起爆剤になります。今一度、マット/鉄棒/跳び箱…と言った固定概念を払いのけて、新鮮な眼で捉えてみてください。
頑張れ!!体操日本(^^)/