ヒューマニエンス「”腸内細菌”見えない支配者たち」を視て
時代の急所を突くテーマが続きますので、『腸:内臓系』は2回に渡って書こうと思います。初回は、生物存在の相互依存性とマクロ・ミクロのヒエラルキーの2点から診える”支配者”様の威力行使を示す、腸内細菌についてです。人間生活における消化吸収器の重要性は、今更ながらのことでありますが、それに輪を掛けた多くの重篤なる機能性が紐解かれるつつある昨今、そのレゾンデートルは否が応でも引き上がっています。特に、医療面/能力開発面では、「内臓力」とのカテゴリを与えられ、一大領域を形成することになるでしょう。自身も”内臓力”を標榜する立場上、腸機能と細菌の働きの解明は探求の的になっています。以下、番組で出された内容でフォーカスしたポイントを述べます。
甲:100兆に及ぶ未知の生物
生物定義とウィルスの境界線上存在でありながら、我々ヒト科を代表とする動植物に寄生・共存し、見えない支配者様の振る舞いを見せる腸内細菌群との捉え方は、あらためて新鮮・斬新・妥当・脅威といった感慨を以って認識しています。「身体は遺伝子の乗り物」というドーキンス解釈は、そのまま腸内細菌にも適用する診方だと思うと同時に、ミクロがマクロの性状を決める生物界ヒエラルキーが、自身の中にも存在するといった実感は、正に現代思想の潮流に属するものだと感じています。原点を申せば、食と性という唯一の存在動機に直結する事象なのです。また、旧来の悪玉菌/善玉菌の選別も過去のモノになりつつあること、興味が尽きないのであります。
乙:感性との関わり
この知見の依拠するところが、ショウジョウバエ実験と言えども、ヒトの(他の哺乳類含)感性に対し、腸内細菌が強く影響するとの診方には大いに共感しています。特に、好み/一目惚れ/フェロモン/食性/体臭等の趣向を無自覚に決めてくる仕組みなど、一見の支配者様の働きと診えています。この事は、脳腸相関研究と繋がり、ヒトの無意識なる情動源泉としての場こそ、第二の脳?「腸」である実態を説明するものになっています。
丙:食性と腸内細菌の関係
摂取される食物への腸内細菌自体の適応性は、旧来から認識されていました。番組でも取り上げた、パプアニューギニア高地に住む民族の芋食慣習が、細菌構成や機能を変化させ、芋由来の糖からアミノ酸を合成するように適応した事実などは、その最たる例示となっています。この事は、現今の世界マラソン界を席巻するケニア勢のウガリ食偏重を、腸トレーニングと称することにも繋がり、細菌の適応力が際立って視えて来ます。しかし、個人的には、パンダの竹食に関して、腸内細菌はもちろんのこと、竹の繊維質を咀嚼する行為が顎筋発達を産み、現在の丸顔になったとの視点などは、食適応の陰圧をより感じさせてくれる材料だと捉えています。
丁:誕生と移動
この事は、上記したように腸内細菌含めた消化器関係が遺伝子同様の生物の繋がり(=絆/社会性)を形成していることを教えてくれます。ヒトの場合、母体内の無菌環境から誕生時の産道通過の際に、母体の乳酸菌が与えられることをもって外界で生きるための細菌を獲得する仕組みを持っています。これは、全人的に生涯に渡って影響するものであり、誠に重要なことであります。他の哺乳類を視れば、子が母親の糞食をすることにより、細菌を獲得する習性があり、種に応じた形があるようです。これが、遺伝子同様に、食性・感性を引き継ぐ重因子になっていることは間違いありません。これは蛇足になりますが、ヒトが動物を調教したり飼いならすとき、自らの唾液を動物と共有すると、その関係性は深く、確実になるという事実があります。これが示すことは、食/消化吸収/排泄レベルでの関わりが最も強いエネルギーであることを如実に示すことなのです。
戊:免疫システム
腸テーマは尽きない重層性ではありますが、この免疫システムが取り出されるとき、同時に包括視点回帰への必要性に気付かせてくれる最良の機会到来を感じます。少なくとも、腸内では消化吸収を越え、免疫細胞を鍛え、誘導するというシステム状の働きが見出されており、既に医療・スポーツ等での運用が始まっているのです。奇しくもこの潮流では、医科学・生理・心理・社会等の中核に立つ免疫と、支える腸内細菌という構図が前提となっており、専門領域分化では対応不能な事態に至っているのです。そうなると、自然、デカルトからの卒業を迎え、一見の新しい人間観が登場してくるでしょう。これに関しては、正に歓迎の一言であります。
2へ続く