NHK番組「超人たちの人体」~アスリート限界への挑戦~を視て

 世相・潮流を捉える意味で、映画/書籍含めたメディア情報を風刺・深読みすることは、大変に有意義であります。今回は、NHKの人体科学番組コンビになっている、タモリ×山中伸弥氏がホストする「超人たちの人体」を視聴した後の感慨をまとめます。時は、第二回東京オリンピック直前というタイミングに合わせての企画でしたが、コロナ禍での形ばかりの開催になってしまったことで、スポーツの盛り上がりとはとても言えない最中であります。故に、近未来の終息を願いつつの、身体パフォーマンス業界のテーマ先取り、といった主旨が妥当なのかもしれません。番組では、4人の世界における優秀競技者の身体適応状態を科学測定データで示し、その可能性と新規方向性の論議が為されていましたので、それになぞらえつつ、私見展開します。

ウサイン・ボルト(100mスプリント世界記録保持者)

 この番組では、通して”シネマティック・レンダリング”というMRIによる人体3D化技術が使われていましたが、ボルトがその筆頭でした。彼自身、過去からも様々な測定法の被験者として提供して来ていますが、この技術により具体的に見出された点で注目するのは、”足底部”の発達に尽きます。もちろん、脊柱側弯克服という努力も見逃せませんが、体幹論全盛?時代にこれ見よがしの提示だったと聴こえています。ボルト自身のパフォーマンスを科学で弁証するなど到底及びも付かない前提でいても、脊椎動物の末端機能という次代テーマへの布石に足ることでありました。

ケレブ・ドレセル(100mバタフライ泳世界記録保持者)

 なんと言っても、socks:ソックスに呼称される”無呼吸泳力トレーニング”の導入にこそ、意味と価値が見出されています。このことは、酸素摂取量と乳酸値に特徴付けられる現代の運動生理学視点を裏切る、次代のテーマになって来ます。いわゆる、吸わないトレーナビリティーと言えるでしょう。この領域は、陰呼吸として、中華導引/インドヨーガ/日本古武道/海女/現今のフリーダイビング に繋がりながら、まさに中心課題として永く実践されて来ていますし、大いなる介入余地のある適応領域です。このドレセルの成果を切欠として、呼吸生理学の更なる進展に繋がると感じられます。

エリウド・キプチョゲ(マラソン世界記録保持者)

 このテーマは最も異論の多いことではありますが、注目の「腸トレーニング」と称したところには賛同したいと思います。番組では、ケニア競技者の”ウガリ食”と高糖質が焦点化されていました。このエネルギー源としての糖への傾斜と、それを可能にする消化吸収機能基盤の構築を以て、腸トレーニングとした訳です。このことは、糖への臓器感受性も含めた、現今注目の”腸内フローラ:光岡知足氏提唱”を拓かずしてはとても言い切れない世界だと思うと同時に、これからのスポーツ内科として外せない領域です。総じて「内臓力」として運用される時代の到来を意味しています。番組でもありましたが、フォームと呼吸循環しか視えていなかった世界に、新風を巻き起こすことは必定です。少なくとも、より立体的に捉える感性の陶冶となるでしょう。

黒人と運動能力というテーマは、輪を掛けて重要な探求視点であります!

タチアナ・マクファーデン(車椅子レーサー:全5種目出場)

 タチアナは、何度も特集されて来ている注目の競技者ですし、自身にとってもその現す特異性は好奇心を躍らせる対象です。番組では彼女のパフォーマンス背景を”意思の力と、それを説明する脳科学”で構成していました。しかし、それでは、障害児が旧ソ連の養育環境で受けたストレスとコンプレックス、克服への自助努力と起死回生の倒立行為が創る潜在性を解明するには、あまりに力不足なのです。また、そこへの精神回帰を引き起こすロシア語である「ヤサマ:私にはできる」などは、究極のアンカリングであり、いかに精神性という力が重篤なるエネルギー体であるかの実証とも診えています。その意味で、不可視なるメタフィジカルこそ、彼女からの人生を賭した提案として受け止めることであります。

👀総じて言えることは、定性への不介入では、実際は何も視えないということを再確認したことであります。

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