ヒューマニエンス「”天才”ひらめきのミステリー」を視て

 ヒトの能力開発を標榜するからには、見逃せないテーマであります。特に、知性の双璧、天才と秀才をリアルに洞察して来ているので、この番組内容もその認識を上塗りするものであったり、新たなポイントを与えられるものであったりと、好奇心を泳がせるに相応しい機会でした。今回のブログでは、泳ぎに際しての自身の手掛かり群を書いてみます。

➊ 大脳基底核と潜在意識

 番組では、やはり将棋の棋士が対象に据えられ、直観像が打ち出す”最善の一手”と、大脳基底核の賦活を関連付けて説明していました。また、ゲストの田中九段のコメントで、「その自動化された一手は、心地よいものである。」とありましたが、これこそ含蓄極まりないものです。自身が想うここでのポイントは、大脳皮質と大脳基底核含めた深部脳の機能相違と連関、に落ちています。再び田中九段いわく、「アマチュアは数学を解いているのに似る、に対し、プロは音か芸術のような感性で打つ。」のコメントもまた、その相補性を詠う直球でありました。この差は、生来の適性もありながら、将棋トレーニング経験の積み重ねが為す、”沁み込み現象”が深部脳まで至り、理性で考え込むという世界から、感じられるという世界への転換が意味されることだと考えています。感じられる現象こそ、せめてもの潜在意識の発露であり、大いなるヒト能力の源泉である事実を確認させてくれるものなのです。またこのことは、当然に将棋だけの領域に留まらず、あらゆる学習行為に共通する普遍の仕組みであることは、正に自明であります。最後は、「美感覚」に返るのはそういうことでありましょう。大脳基底核自体の進化由来は、通常、爬虫類脳に分類され、生物本能性の制御場と理解されています。その進化重層の姿と本能力の凄まじさは、人間理解の肝にもなりますので真向から捉えていますし、無意識・潜在意識と精神分析との融合解釈は、まだまだこれからの仕事になっています。コーチングの行き着く先も、唯一そこしか有り得ません。

★蛇足として、◎将棋という秀逸教材 ◎全てに共通する言語性 を挙げておきます。

❷ アインシュタインとグリア細胞

 アインシュタインの脳構造に見出された”グリア細胞”密度は、天才という性質の持つ特異構造の大事な一端であります。グリア細胞の働きは、構造接着と同時に、学習・記憶・繋がりという機能を補完しているとの知見は納得の一言でした。この視点から、ヒトと他の動物を比較したデータもまた面白く、クジラの相対比が「6」を越すということは、構造支持にも重要な働きをしている実証と、哺乳類クジラの属性を示す重要なものでありました。しかし、グリア細胞に関して、最も焦点を当てなければならないことは、学習・記憶・繋がりという認知機能への参加という新たな側面であり、特には神経細胞同士の「繋がりと連関交通」を演出している事実です。この性質こそが、天才の天才たる、ひらめきの源泉たる、創造の母たる、ポイントなのです。

★蛇足として、◎天才と類されるヒトだけの特区ではない事 を挙げておきます。

❸ IQ尺度

 ルイス・ターマンのIQ研究「天才の遺伝学的研究」が紹介され、再びの才能/環境論に引き戻されました。IQ尺度は全世界に拡がり、ヒト知性レベルを測る指標としての存在感は、揺るがないようにも見えますし、確かにその一時一端の属性を示すことは違いありません。自身も、日々眼前にIQ180近い方と深い交流をさせていただいていますが、意味を痛いほどに感じています。しかし、全てに絶対が存在しないように、ここに於いてもその相対性が現れています。番組内では、ウィリアムとルイという、IQ140に満たない子が最終的には、ノーベル賞を受賞した事実を例示しながら、ヒト能力開発と発揮に対する、興味と関心の力/こだわりのエネルギー/持続力の価値、が持ち上げられていました。こうなると、結局は環境有意であり、GRITであり、アメリカニューソートの出番になってしまいますし、現今の科学者の扱う枠組から漏れてしまうのかもしれません。少年院で活動されている精神科医:宮口幸治さん「ケーキの切れない非行少年」も書かれているように、”ヒトは測れない”というあらためての実態を謙虚に考える機会を与えられたようです。

★蛇足として、天気予報や地震予知が未だ為されないように、◎ヒトのタレント発掘など は、、、、。

❹ デフォルトモードネットワーク

 一見の厳めしい横文字用語です。いわゆる、ぼんやり時間の効用 を学術で言いたい表現と理解しました。番組では、ひらめきや観の転換を得るために、積極的にマインドワンダリング(:心の散歩)をしよう、というお話でまとめられていたようです。この意味するところは良く分かり、歴史的には「逍遥」であり、起源は古代ギリシャまで遡ることになります。ちなみに、小説家坪内逍遥の名は、そういうことであります。この事を当方なりに解釈させてもらいますと、α)睡眠ふくめた”寝かせ”の生物的意味とリズムの本質 β)脳科学での賦活部位の特定と、左右/上下振動の意味 に集約されます。翻って現代生活を想えば、合理・理性・迅速・下積みレス・一発検索等、に代表されるように、ヒト性質に対して、真逆の世相に取り巻かれています。どうあっても、能力を出すに相応しくない方向へ進んでいる状況を俯瞰して欲しいところです。

★蛇足として、何をどうするか? の裏側に来る、どう休むか? にヒントが隠されています。これこそ、我々日本人の「間」の文化です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です