本当の ラストサムライ 6

 書き尽せないテーマですが、今回は『6』で止めたいと思います。

 CAで予科練を代表とする日本の航空隊を診たときに、どうしても扱わなくてはならないことは、”円転(天)自在” という言葉に代表される感性です。これは、バランス/平衡/定位 で言い換えも可能ですが、それでは満足しえないニュアンスを含んでいます。言葉の由来は、古武道世界からのものであります。実際に於いては、軽いプロペラ機での高速空間暴露の状況下で、如何にして 上下 左右 前後 の不覚に陥らずに、索敵 追尾 攻撃 援護 脱出 を果たすか、を考えるときの絶対基礎能力(適性)と言えます。いわゆる、自身の身体を貫く3本の軸(上下/前額/矢状)と、その回転運動が引き起こす定位障害に対する耐性、が言い得て妙でしょう。現代の航空医学では、「空間識失調」と言われており、パイロットが最も恐れる現象です。また、場が地球磁場圏を脱出したなら、それは「宇宙酔い」と言われており、その解明は遅々としているというのが、実態です。空間識 と 宇宙酔い は、厳密に言えば異質ではありますが、ヒトの平衡課題 と拡げれば同質に扱えると思います。

 では、その絶対基礎能力を引き上げる為に、彼らがどのような訓練を行ったのか。そこが最大の焦点であり、興味の的になります。それは、「海軍体操」と言われる、ゲルマン/ノルマンに由来を持ち、海軍が独自に開発した方法です。実際には、デンマーク体操との縁が深く、戦前のニルスーブック来日記念の演技会に同席した海軍堀内豊秋大佐が中心となり、作られました。内容は正に、即自身体を覚醒させるものであり、鋭敏 強靭 柔軟 律動 耐性 といった枕詞が相応しい、完成度の高いものでした。身体能力開発、といった現代視点から診ても、非常に素晴らしいプログラムだと感じています。

 パイロットの場合には、更に輪を掛けた『征空體育』なるプログラムが付加され、平衡/定位における高いレベルの適応が求められました。最近のブームで言えば、パルクールに似た性質のものです。その象徴は、上記の”円転(天)自在”を地で行く世界であり、主役となる訓練器具は「操転器」と呼ばれていました。それは、金属製の球体の中に手足を固定し、自らの身体操作を使って、球体を自在に動かす、というものでした。予科練生徒による操転器を使ったマスゲームは、誠に壮麗な様相であったと言われています。発想・輸入元は、これもゲルマンではありますが、ゲルマンにおいては”フープ”と呼ばれており、球ではなく円だったのです。この円を球に改良したのが、海軍であり、採用に当たっての基礎データを提供したのが、5 でご紹介した”福田精”先生だったのです。これにまつわる業績の秀逸性は、申し上げたとおりであります。事実、こういった戦時研究が、戦後の学校体育の礎となっていったことも忘れてはならないと思います。

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